龍が言うことには……

「翠子さんは順調に入っていったようだ」

 これ見よがしに竜胆がそう言うと、柊木は慌てる。

「い、いやまぁ……しかし翠子ではないですよ。あの子は邸から一歩もでませんし」

 間違っても翠子を山に追い出したとは知られたくないのだろうが、よくも次から次へと嘘が出るものである。
 苦笑混じりに竜胆は首を傾げた。

「それにしては変だ。翠子さんは山袴を履きなれた様子でしたが?」

「あれは、ええ……なにしろ変わり者ですから」

 頬を引きつらせる柊木を心底醜い奴だと軽蔑の目を向けたときだった。

 けたたましい犬の鳴き声が山から響いた。

 眉をひそめる竜胆に柊木伯爵は姑息な笑みを浮かべてへらへらと笑う。

「山には野犬も多いので……翠子は、大丈夫かな」

 オオカミとあやかしがいる山に野犬などはいない。犬すら恐れる山だ。

(さては、翠子を帰らせないために野犬を放ったか)

 あやかしどもが彼女を守るはずだと思いつつ、固唾を呑んでジッと山の入り口を見つめた。

 山姥は月夜野に仕えるあやかしだ。この山だけで採れるキノコが好きでときどき山に入る。翠子と出会ったときもキノコを取りに来ていて『あの娘はいい匂いがするな』と言っていた。