龍が言うことには……

 頭を下げて父の寝所を後にした竜胆は、静かに廊下を進むうちふと気づいた。口の中に血が滲んでいる。無意識のうちに唇を噛んでいたらしい。

〝始末すればいい〟との父の言葉が脳裏をよぎり、胸が締め付けられる。あの言葉を聞いたときから、なんとも言えず胸がざわついている。

 父か悪いわけではない。龍の力を再び得ることが月夜野一族にとって唯一無二の使命だ。もし翠子が探す娘でなく、ほかの娘だとわかった場合は、翠子は邪魔な存在になる。しかし――。

(彼女に間違いない)

 大きく息を吸った彼は立ち止まり硝子越しに庭を見つめた。雨は雪になっていて、庭木の葉が白く染まり始めている。

 この寒い夜を翠子はどう過ごしているのか……。

 酷い状況にありながら卑屈に心を歪めることもなく、彼女が見せる可憐な微笑みが、いつの間にか竜胆の心に住みついている。

 彼女さえ首を縦に振ればいつでも助ける準備はできていた。