龍が言うことには……

 龍の眷属は体に龍の紋章となる痣があり、宝珠を授かったならば彼女の体にも痣はあるはず。しかし頼みとなる痣は、翠子の体の見えるところにはない。さすがに裸になれとは言えず確かめようがなかった。

 それでもあの山に通ううち、翠子には親和性のようなほかの人間には感じないなにかを感じるのだ。

 そもそもあの山で無事でいられるのも普通じゃない。初めて彼女に会った後なんとなく心配で、もしあの娘がまた山に来たならば助けてやれと、山のあやかし共に言ってあった。
 しかし、あの山には竜胆の宿敵ともいえる〝ある鬼〟が時々現れる。もし翠子が遭遇していればひとたまりもないはず。

 彼女にはなにか特別な力があるのは間違いない。

「父上、これを」

 竜胆が懐から取り出した懐紙を開くと長い髪が一本ある。

「柊木翠子の髪です」
 洞窟で彼女の髪にふれたときに指についてきた一本だ。

 懐紙を受け取った父は指先で髪を摘まむ。

 すると父の黒い髪が緑がかった銀髪になり、瞳も朱のように赤く変わっていく。これは月夜野一族の特徴で、権能を使うとき髪と瞳の色が変化する。

 竜胆も龍の山に入るときは権能を滾らせる。万が一にもあやかし共に足を掬われないためだ。

 父は「ほう……」と感嘆した。

「確かに感じるな。これは五年前の晩に感じた気配に、限りなく似ている」

 懐紙を閉じて竜胆に返した父は「ひとまず迎えるのが得策だろう」と言った。

「いずれにせよこの五年、柊木の娘以外の候補はおらぬ。違ったならば始末すればいい」

 顔色ひとつ変えずそう言うと、父は再び横になった。