そして数百年に一度のその一度が、今から五年ほど前にあった。

 月夜野一族は、龍が現れた月夜になるとその力を感知できる。五年前の満月の夜、ただならぬ気配を感じたら竜胆と竜胆の父は山へと急いだ。

 必死で龍の気配を辿ったが、見つからない。

 しかし声なき声が空から響き、竜胆と父が天を仰ぐと月に龍が映った。

【穢れなき娘の心根に、我が命の源たる龍珠を託す】

 そう語る透き通るような声が、はっきりと聞こえた。

 龍はひとりの少女に宝珠を授けたという。宝珠とはすなわち龍の権能に他ならない。

 その日から竜胆と父は娘を探している。月夜野一族と同じ龍の眷属となった娘を――。



 布が擦れる音がして、竜胆が瞼を上げると父が目を覚ましていた。

「ああ、来ていたのか……」

 父はゆっくりと上半身を起こす。

 急須から茶碗に茶を注ぎ込んで父に渡し。まずは会議の報告をすると父は呆れたように頭を振る。

「相変わらずくだらない会議だな」

 竜胆は苦笑する。その通り、新年の儀に参列する席順を決めるだけで小一時間はかかった。父の言う通り実のない話に時間を取られるだけの苦痛な半日だった。