柊木伯爵家の裏山は伯爵家の領地ではなく帝国の管理地であり、国民に自由に解放している。解放したところで入る者などいないからだ。

 あの山には銀狐に狸男に烏天狗、河童など多くのあやかしがいる。あやかしどもは入山させる人を選ぶ。気に入らなければ惑わせて山の入り口に戻してしまうか、野獣に襲わせる。

 とはいえ、入り込んだ人間がよほどの悪人でもない限り殺傷はしない。ある意味、人智の及ばない力に守られたある意味神聖な山でもあった。

 月夜野一族はあの山を〝龍の山〟と呼んでいる。

 龍の山には数百年に一度、龍が現れると語り継がれていた。

 龍はこの世のあやかしの頂点に君臨し、雨、風、大地という自然を司り、気力に守護力あるいは浄化や治癒力をも備えている。数百年に一度しか帝国には現れないために存在感が薄いが、最強であることに違いはない。

 この帝国で龍の眷属であるのは月夜野一族だけである。月夜野一族は龍から宝珠の欠片を授かって力を繋いできた。

 だが数百年に一度しか龍が現れないために宝珠を授かる機会を逃し、代を重ねる毎に力を失っている。