龍が言うことには……

 いっそ叔父の言うとおりに結婚しようかと思った。

 男爵がどんな人かはわからないが、もしかしたら優しい人かもしれない。少なくとも叔父の嫌がらせは終わり、誰にも迷惑をかけずに済む。

 でも、東北にまで行ってしまえばこの家をもう取り戻せないだろう。どうしたらいいのか結論がでないままでいた昨日――。

 突然、件の男爵が現れた。

 愛香の着物を着るように言われたときからおかしいとは思っていたが。

『これが翠子です』

『ほう。これはこれは。いくらか頭がおかしくてもこの美貌なら……』

 男爵は舌なめずりをするようにそう言った。

 痩せぎすな男は叔父と同じくらいの歳で、細く吊り上がった目で舐めまわすように見つめられた翠子は、おぞましさに身を震わせた。

 離れに連れ戻されるなり愛香が来て、窓から翠子を覗き込み大笑いした。

『お前の結婚相手、吐くほど気持ち悪い男だね! あんまりにもお前にぴったりで、びっくりしたよ!』

 ひーひーと引きつけながら笑いこける愛香の声に耳を塞ぎ、翠子は絶対にイヤだと思った。あんな男に連れて行かれるくらいなら、死んだ方がましだ。

(リン……)