龍が言うことには……

 離れには風呂も台所もなんでもあり、食材もあって生きていくには困らないようになっている。軟膏を渡された。体の傷や手の荒れを治すよう軟膏を塗れと言われ、翠子は男爵との結婚式を待つばかりの状態だ。

 しずくが助けようとしてくれたけれど、南京錠の鍵は叔父が持っているし、もし見つかってしまったら、しずくがどうなるかわからない。しずくは田舎からひとりで上京し、少ない給料のほとんどを実家に仕送りをしているのに、ここを追い出されたらどうなるか。申し訳なくて、そんなことはさせらなかった。

 出る方法がないわけではない。いざとなればリンに渡された笛を吹けばいい。あやかしが助けに来てくれるし、それに、誕生日を過ぎても翠子が裏山に報告に来なければ、リンが助けに来てくれると言ってくれた。

 しかし、翠子の心は晴れない。

 この家を取り戻すことを目標にしてきた翠子にとって、それが叶わないのは生きる希望を失ったも同然だ。逃げたところで叔父は怒り狂って翠子を捜すだろう。今後一生叔父に怯えながら、なんの希望もなく生きていく。そんな人生が幸せであるはずもない。