龍が言うことには……

「ええもちろん。実は家の者が誤って伯爵邸の裏山に入り込んでしまいましてね。深夜の山で彷徨っていたところ翠子さんに助けられたと言うのです」

 侯爵が「深夜の裏山?」と聞き返した。

 普通ではありえない。柊木伯爵家の裏山と言えば誰もが知る危険な山だ。その山に深夜に入るなど到底聞き逃せない話である。侯爵のみならず皆がピクリと眉をひそめた。

「ええ〝深夜〟の裏山です。迷って『助けてくれ』と叫んでいると、邸からお嬢さんが出てきてくれたと。深夜に使用人を呼び起こすのはかわいそうだからと言って。なんでも伯爵家の人々は裏山のあやかしと親和性が高いらしく、安心して山に入られるとか――ですよね? 柊木伯爵」

 よほど驚いたのか柊木伯爵は目を剥いたまま、口を開いたり閉じたりしている。

「そのようなお嬢さんなら、是非嫁にと思いましてね」

「おおー、柊木伯爵。小公爵から望まれるとは、めでたいですな。素晴らしい」

「しかもそのような能力をお持ちとは」

 皆が口々に誉めそやした。

「いや、あ、あの、もしや、それは翠子ではなく我が娘の愛香では?」