皇族の次に身分が高く、地位も容姿も非の打ち所がない。是非にも家の娘をと誰しもが願う相手であるその彼が遂に結婚を決めたというのも驚きだが、その相手にも驚きを隠せない。

 なにしろここにいる誰も柊木翠子を見たことがないのだから。

 当の柊木伯爵はといえば、大きく目を見開いたまま唖然としている。

「柊木伯爵。順番が違ったことはお詫びします。今日その話をするつもりでいたのですが、話題にでたので黙っているわけにもいかず」

「し、しかしなにかの間違いでは? 姪は」

 ありえないと言わんばかりに柊木は動揺を隠せないでいる。

 それもそのはずだ。彼は翠子が貴族の誰の目にも留まらないよう慎重に隠してきた。邸から一歩も外へは出さず、行かせたのは夜の裏山だけだ。なのになぜ彼の目に留まったのか。

 あるいは裏山に行かずどこかに助けを求めたのかとも思ったが、翠子が山から戻ってくるところを外仕事の下男が毎回確認している。なのになぜ?

 彼の疑問を代弁するように、柊木の隣の席の侯爵が口を挟んだ。

「小公爵は、翠子さんをご存知なのですか?」