起きようとしたが、殴られたあちこちが痛い。

「しずく、私は平気だから行って。見つかったらしずくが折檻されちゃうから」

「ごめんなさい……お嬢様」

 しずくは泣きながら馬小屋を出て行く。

 湯飲みを握りしめた翠子は、ようやくあきらめがついた気がした。叔父はやはり最初から翠子に家を返す気持ちなどなかったのだ。

 翠子とて予想はしていた。吝嗇家の叔父がそうやすやすとこの邸を手放すとは思えない。

 ただ後悔をしたくなかっただけだ。頑張りが足りないために両親との思い出のこの家を手放したのでは一生後悔すると思ったから。

(でももういい……。この家を出よう)