いったいなんの用なのか。ただ叱るなら、いつものように叔父が翠子のところに来て怒鳴り散らすはず。

 もしかして、約束の話かとわずかに期待した。

「翠子です。お呼びでございますか」

 廊下から声をかけると「入れ」と叔父の声がした。

 落ち着いた声色にいくらか安堵して襖を開けると、部屋には叔父だけがいた。

 翠子は少し離れたところで正座し、ひれ伏した。
 ふと、汚した前掛けをしたままだと気づき、怒られてしまうかと唇を噛む。

「翠子、お前も十八になるな」

 ハッとして顔を上げた。やはり十八になったらこの家を返してくれるという約束の話なのか。

「喜べ。縁談がきたぞ」

「えっ?」

 叔父の話では、とある男爵が後妻を探しているという。

「お前の話をしたら、たいそう喜んでな。男爵は東北の肥沃な土地に邸を構えているから食うには困らんぞ」

「あの……十八になったらこの家を返してくださるというお話しは」

 叔父の表情が一瞬で般若に変わる。

「なんだと! この恩知らずがっ!」