『あいつのたっての願いなのさ』

 それを聞いたとき、翠子はぼんやりと思った。

 リンにそれほど想われる女の子は幸せだ。彼はこの山のあやかしとが一目置くほど強くて頼もしい。そして、なによりも優しい。
 いつかきっと女の子は見つかり、ふたりはしあわせに暮らすのだろう。


「翠子、髪に枯れ葉がついているぞ」

 リンが手を伸ばしてきて髪に触れた。

「ありがとう」

「もっと火の近くに寄るといい。ほら」
 竹を切っただけの湯飲みにお湯を注いでくれた。
「体が温まるから」

 こくりと頷いて、両手で湯飲みを包み込むと、じんわりと指先に血が通ってくるようだった。

(リン……)

「女の子だけど、大丈夫よ、リン。きっと見つかるわ」

 リンは応えず口もとだけで微笑むが、穏やかな眼差しはそれだけで翠子の心を温かくする。

 自分の分までせめて、彼には幸せを掴んでほしいと思う。

 神様はきっと願いを叶えてくれるはずだ。
 リンは心まで美しい人だから……。