リンは銀狐から翠子が追い出される度にここに来ていると聞いたようで、仕事ならいつでも紹介すると言ってくれていた。

「それは……私が十八になったら、叔父様がお邸を返してくださるって約束だから」

 瞼を落とした翠子は、小さくちぎった干し肉を口に入れる。堅い肉は塩辛い。

「そんな話、本気で信じているのか?」

 うつむいたまま、翠子は力なくうなずく。

 信じているというよりも信じなければここまで頑張ってこれなかった。自分が邸から出て行ったら最後、正真正銘あの邸は叔父のものになってしまう。

 命ある限り両親との思い出の邸から出て行くわけにはいかない。

「それで、いつ十八になるんだ」

「あと半月です」

 叔父が邸を返してくれないとはっきりすれば、そのときこそ家を出るつもりではいるが……。

 半月後。少なくとも今のこの状況よりはよくなるに違いないと信じ顔を上げると、リンはにっこりと微笑んだ。

「心配ない。俺がいる」

 早くも瓢箪を空にした銀狐が「あたしも、いるよ」と名残惜しげに瓢箪を逆さにする。

 そしてリンが小さくて細い笛をくれた。