『それで、龍の印がある娘がどうかしたの?』

『大事な用事がある。俺にとっては、とても大切な娘なんだ。心当たりはないか? 娘にはこんな感じの痣があるはずなんだが』

 彼は着物の袖を捲り自分の腕にある赤い痣を見せた。痣は三日月のような形をしていてよく見れば龍のようだった。

『残念ですが、わかりません。私のまわりでそのような痣がある人いないです。この山で会ったこともありません』

『そうか』

 リンとはその後も何度かこの洞窟で会った。今日で彼に会うのは四回目になる――。



「干し肉を持ってきた。干した果物も」

「ありがとう」

 銀狐が手を伸ばそうとすると、リンが「お前はこれだ」と徳利(とっくり)を渡す。銀狐は酒が好きだ。食べ物が入っているらしい革袋も渡すと狐は覗き込んでうれしそうに忍び笑う。

「気が利いてるじゃないか」

 銀狐はあやかしの生き餌が好きだ。革袋の中に入っているものは想像したくないものに違いなく、翠子は見ないようにする。

「今夜も追い出されたんだろう? お前はそんな目にあっているのになぜ家を出ないんだ? 居場所なら俺がいくらでも探してやるのに」