二つの世界線 四の命






    真新しい制服。
    革の鞄。
    白の靴下。
    ローファー。
    全てが新しい。
    生活もだ。



 四月。高校生になった。
 少しゆとりのある制服を着た人々で埋め尽くされた体育館。同じものだけど、この制服に対して抱く感情は皆、違うだろう。
 私には、服はすべて、「鎧」のように感じられる。長い丈のものはすべて。私の弱いところを守ってくれる。
 私の弱いところ。それは、誰でも、簡単に、見ることができる。



リストカット。



 手首に付けた多くの傷。
 もうすでに塞がっているが、色素沈着した皮膚の間に不自然なように描かれた白い線は誰から見ても怪しい。
 リスカ痕だと気づかれてしまうだろう。
 この傷が見つかったら、私は、「変人」だと認識される。「病んでる」とか「メンヘラ」とか。
 まあ、そう考えてしまう私もまた、偏見の塊ではあるが。

 この高校の制服は指定のものであれば、好きに組み合わせて着ることができる。
 私にとってそれは大きかった。
 夏は夏服。冬は冬服。
 そう決められているのは嫌だった。夏であっても長袖を着ることができる。
 ありがたかった。
 とにかく隠したい。

 この傷を。


 教室。話せる人を確保しようと必死な人々。

 私は、誰とも関わりたくない。

 人と関わっても良いことは何一つない。
 だから、耳栓をして、本を読む。誰からも気にされない、教室の端で一人静かに過ごす根暗な女子を演じる。
 中学三年生のあの時までは常にクラスの中心に立って多くの友達を持ち、部活で活躍する女子でいられたのに。
 受験勉強によるプレッシャー、ストレスでカミソリを握り出した。
 元々は腕や足の毛の処理のためだけに使っていた。でも、この時は皮膚に切り、血を出し始めた。
 ポツポツと垂れる赤いものが心を落ち着かせてくれたのだ。

 それが今では心を狂わせ、底の見えない暗闇へ堕ちさせてくる。

 小学生の時、廊下ですれ違ったお互い顔の知らない同じ学年の人が今私が持っている傷と同じものをつけていた。
 手首に三本ほど。
 あの時の私にはあの傷の意味と痛みがわからなかった。
 心の底で「変だな」って思ってしまったことをずっと後悔している。

 数年後にこの傷を作った私にも「変だな」って感情を抱いているのと同じだから。
 今は、あの子も私も変じゃないことぐらい理解している。きっと、あの子にも辛い出来事があったのだと理解している。

 黒髪ロングの背の高いあの子。

 頭からその姿が離れたことは一度もない。



 高校入学前に決めたこと。
 それは絶対に目立たない、ということ。
 関わる人を増やせば、その分この傷が知られる可能性が高まる。
 この傷のことが知られ渡ったら、私はここにはいられない。

 机に両肘を付け、本を開く。
 ブレザーとシャツの袖が少し落ちてしまった。








 手首が見えてしまった。












 やってしまった。




















 もし、近くの人に見えていたら、終わりだ。
 誰も見ていなかったと、信じたい。
 

「ねぇ」


 隣の席のギャルのような女子。金髪ロングで強く巻いてる。
 メイクもだいぶ派手で校則が緩い高校であるとはいってもここまでしていいのかは不安になってくる。 

 そんなことを考えてみても上回るのはリスカ痕を見られたかもしれないという不安。

 恐怖で怯えていた。
 


















「私も一緒」































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