* * *
手をつないで歩く蓮の足取りは軽く、顔はずっと嬉しそうだった。
「高校の文化祭ってすごいね!僕もここに通いたい!」
未来を語る明るい声に、麗衣も優真も自然と笑顔になる。
校内は、手作りの出し物であふれていた。
廊下を進むたび、教室ごとに雰囲気ががらりと変わっていく。
段ボールで作られたアーチ、天井いっぱいに吊るされた折り紙の装飾。
いつもの校舎が、まるで遊園地みたいだった。
「わ、射的だ!」
蓮が真っ先に駆け寄ったのは、教室を使った射的コーナー。
渡された木製の銃を構え、的の真ん中を真剣に狙う蓮を後ろから見つめる。
「よーし……絶対当てる……!」
——カシュッ。
けれど、弾はわずかに逸れて、的の端をかすめただけだった。
「惜しい!」
優真が笑いながら隣に駆け寄って声をかける。
「ちょっと左だったな〜。でも、フォームは完璧だったよ」
「くそぉ……あと3発でぜったい落とすから!」
優真のアドバイスを聞きながら調整し、最後の3発目で見事に景品のお菓子をゲットした蓮は、すぐに次の標的を見つけたようだった。
「次!わたあめ!行こっ!」
立ちのぼる甘い香りに誘われて、3人は綿あめブースへ。
蓮は、目の前で巻かれていくふわふわのピンク色に目を輝かせていた。
「えっ、僕の顔より大きいんだけど!」
「サービスかな。人気者には甘いってことかもね」
可愛い蓮のために大きく作ってくれた様子の綿あめを受け取り、小声で「ありがとうございます」と伝える。
「へへ……お姉ちゃん、いる?ひとくちあげる!」
「いいの?じゃあ、ちょっとだけもらおうかな」
「いいよ〜!優真も食べて!」
ひとくちと言いながらなぜかたくさん分けてくれる蓮と、3人で綿あめを分け合いながら、また歩き出す。
次に辿り着いたのは、迷路風の教室展示だった。
「暗っ!でも入ってみたい!」
黒い布で仕切られた迷路の中、蓮は先頭に立ってどんどん進んでいく。
こんな暗闇で怖がらない蓮は、正直意外で、麗衣は驚いている間に蓮に強く手を引かれる。
「右!右ってば〜!そっちは行き止まり〜!」
「はいはい、分かってるって」
「も〜、ついてきて!」
何度も振り返って笑うその笑顔は、今まで見せたことのないくらい、無邪気でまぶしかった。
(こんなに……年相応に笑ってる顔、久しぶりに見た)
麗衣は、蓮の手を握る指に少しだけ力を込めた。
それに気づいたように、蓮がにっこりと見上げる。
迷路を出て、さすがにはしゃぎ疲れた様子の蓮と近くのベンチに腰を下ろす。
穏やかな風が吹く中、ふいに、麗衣がぽつりとこぼした。
「今日は、なんか、普通の姉弟みたいだね」
それは、言ってしまってから申し訳なくなるような、切ない言葉でもあった。
普通じゃないことを、知っているから。
そうじゃない日々の方が、ずっと多かったから。
「うん、僕楽しいよ。お姉ちゃん!」
力強く頷く蓮は優しい。
小学3年生にして、麗衣を思い遣って笑ってくれる蓮に、また少し切なくなった。
隣でそれを聞いた優真は、何気ない声で返した。
「いつもちゃんと家族でしょ、ふたりは」
その言い方が、あまりにも自然で、優しすぎて。
麗衣は、ほんの少し驚いたように目を見開いたあと、蓮と視線を合わせて、小さく笑い合った。
「そうだよね、蓮」
「うん!」
普通じゃない自分たちにも、こういう時間があっていいんだ。
そんなふうに思っていたこと自体が、きっと違うんだ。
私たちは、私たちの普通を過ごしていけばいい。
蓮と居られる今は、こんなに幸せなんだから。
そんなふうに思えるようになった自分が、少しだけ誇らしかった。
手をつないで歩く蓮の足取りは軽く、顔はずっと嬉しそうだった。
「高校の文化祭ってすごいね!僕もここに通いたい!」
未来を語る明るい声に、麗衣も優真も自然と笑顔になる。
校内は、手作りの出し物であふれていた。
廊下を進むたび、教室ごとに雰囲気ががらりと変わっていく。
段ボールで作られたアーチ、天井いっぱいに吊るされた折り紙の装飾。
いつもの校舎が、まるで遊園地みたいだった。
「わ、射的だ!」
蓮が真っ先に駆け寄ったのは、教室を使った射的コーナー。
渡された木製の銃を構え、的の真ん中を真剣に狙う蓮を後ろから見つめる。
「よーし……絶対当てる……!」
——カシュッ。
けれど、弾はわずかに逸れて、的の端をかすめただけだった。
「惜しい!」
優真が笑いながら隣に駆け寄って声をかける。
「ちょっと左だったな〜。でも、フォームは完璧だったよ」
「くそぉ……あと3発でぜったい落とすから!」
優真のアドバイスを聞きながら調整し、最後の3発目で見事に景品のお菓子をゲットした蓮は、すぐに次の標的を見つけたようだった。
「次!わたあめ!行こっ!」
立ちのぼる甘い香りに誘われて、3人は綿あめブースへ。
蓮は、目の前で巻かれていくふわふわのピンク色に目を輝かせていた。
「えっ、僕の顔より大きいんだけど!」
「サービスかな。人気者には甘いってことかもね」
可愛い蓮のために大きく作ってくれた様子の綿あめを受け取り、小声で「ありがとうございます」と伝える。
「へへ……お姉ちゃん、いる?ひとくちあげる!」
「いいの?じゃあ、ちょっとだけもらおうかな」
「いいよ〜!優真も食べて!」
ひとくちと言いながらなぜかたくさん分けてくれる蓮と、3人で綿あめを分け合いながら、また歩き出す。
次に辿り着いたのは、迷路風の教室展示だった。
「暗っ!でも入ってみたい!」
黒い布で仕切られた迷路の中、蓮は先頭に立ってどんどん進んでいく。
こんな暗闇で怖がらない蓮は、正直意外で、麗衣は驚いている間に蓮に強く手を引かれる。
「右!右ってば〜!そっちは行き止まり〜!」
「はいはい、分かってるって」
「も〜、ついてきて!」
何度も振り返って笑うその笑顔は、今まで見せたことのないくらい、無邪気でまぶしかった。
(こんなに……年相応に笑ってる顔、久しぶりに見た)
麗衣は、蓮の手を握る指に少しだけ力を込めた。
それに気づいたように、蓮がにっこりと見上げる。
迷路を出て、さすがにはしゃぎ疲れた様子の蓮と近くのベンチに腰を下ろす。
穏やかな風が吹く中、ふいに、麗衣がぽつりとこぼした。
「今日は、なんか、普通の姉弟みたいだね」
それは、言ってしまってから申し訳なくなるような、切ない言葉でもあった。
普通じゃないことを、知っているから。
そうじゃない日々の方が、ずっと多かったから。
「うん、僕楽しいよ。お姉ちゃん!」
力強く頷く蓮は優しい。
小学3年生にして、麗衣を思い遣って笑ってくれる蓮に、また少し切なくなった。
隣でそれを聞いた優真は、何気ない声で返した。
「いつもちゃんと家族でしょ、ふたりは」
その言い方が、あまりにも自然で、優しすぎて。
麗衣は、ほんの少し驚いたように目を見開いたあと、蓮と視線を合わせて、小さく笑い合った。
「そうだよね、蓮」
「うん!」
普通じゃない自分たちにも、こういう時間があっていいんだ。
そんなふうに思っていたこと自体が、きっと違うんだ。
私たちは、私たちの普通を過ごしていけばいい。
蓮と居られる今は、こんなに幸せなんだから。
そんなふうに思えるようになった自分が、少しだけ誇らしかった。



