* * *

 「麗衣、写真撮ろ〜〜!」

 突然名前を呼ばれ、振り返るとクラスの女の子たちがスマホを掲げて手を振っていた。

 「麗衣、真ん中来て〜!」
 「え、私? ……うん、わかった」

 わいわいと並び、レジカウンターの横で数人と肩を寄せ合ってポーズをとる。
 カメラのシャッター音が響いたその瞬間、ふと視線の先で動きがあった。

 教室の入り口で、備品を運んでいた優真が立ち止まり、こちらを見ていた。

 目が合う。
 ほんの一秒ほどの交差だったけれど、その視線はしっかりと交わり、麗衣は、思わず微笑んだ。
 優真も、少しだけ目を細めて、微笑み返す。

 ほんのささやかなやりとりだったけれど、胸の奥がぽっとあたたかくなった。

 かつて、笑うことは、仮面をつけるような作業と同じだった。

 (……なんだろう。ちゃんと、楽しい)

 今、唇の端が自然に持ち上がるこの感覚は、少し不思議で、間違いなくあたたかい。

 「麗衣、ちょっとここの装飾取れてきちゃって……」
 「あ、そこね、ちょっと不安定だったんだよね」

 クラスメイトに名前を呼ばれて、ありのままに掛け寄る。

 「さすが麗衣、すぐ直るね!ありがとう!」
 「どういたしまして!昨日偶然同じの直してたから」

 誰かの役に立てることが、苦しくない。
 誰かの「ありがとう」が、怖くない。

 麗衣の足元には、もう、花びらは一枚も見当たらなかった。