* * *
「自殺?そんなわけないだろ!?ちゃんと調べろよ!」
大人に向かって、こんな風に声を荒らげたのは初めてだった。
葬儀が終わっても、現実感なんて戻ってこなかった。
毎日が夢みたいで、でも朝になると目が覚めて、ああ、やっぱり美羽はいないんだ、って思い知らされる。
何をしていても、ふとした瞬間に空気が止まる。
食卓も、風呂場も、帰り道も。
美羽がいないということが、世界のどこかを削り取っていた。
それでも、俺は学校に行った。
「……美羽ちゃんのことで、少し話があるんだけど」
ある日の放課後、担任の先生に呼び止められて、保健室の中の席に座らされた。
そこには、美羽の担任もいて、俺は小さく頭を下げる。
校舎のざわめきが少しずつ遠ざかっていくなかで、先生は静かに口を開いた。
「……優真くん。今日は、美羽さんのことで話しておかなきゃいけないことがあるんだ」
美羽の名前が出たことで、ぼんやりとしていた頭がヒヤリとする。
その時初めて視線があった先生の目は、揺れているように見えた。
先生の手元には数枚のメモ用紙。
誰かの証言だろうか。
何度も折り目のついた紙が、先生の指先で小さく震えていた。
「……ごめん。気づいてやれなかった」
それは前置きもなく、いきなり出た言葉だった。
目を伏せる先生の表情は、いつになく苦しそうだった。
「なんのことですか?」
「最近、生徒からの聞き取りや保護者とのやり取りの中で……少しずつ見えてきたんだ。
美羽ちゃん、学校で……つらい思いをしてたみたいで」
——無視。
——上履きの紛失。
——グループLINEでの悪口。
先生の声は淡々としていたけれど、確実に震えていた。
一つひとつの言葉が、ナイフみたいに胸に突き刺さる。
「直接的な暴力はなかった。でも……いろんなことが積み重なっていたなら……きっと、それが……原因だったんじゃないかって思うんだ」
その言葉に、何かが頭の奥で弾けた。
(……原因?)
——じゃあ、美羽は、それで。
怒りが一瞬、先生に向かった。
ガタッと音を立てて立ち上がった俺に、先生は覚悟を決めたように目を瞑る。
担任だったくせに。
毎日顔を合わせていたくせに。
なんで、なんで誰も気づいてやれなかったんだ。
でも、その怒りはすぐに、自分のほうに返ってきた。
(……俺だって、そうだ)
家にいたのに。
一番近くにいたはずの、兄だったのに。
美羽は、何も言わなかった。
けれど、本当は——言えなかっただけなんじゃないか?
俺が、気づこうとしていなかっただけなんじゃないか?
——気づいていれば、変えられた未来が、あったかもしれないのに。
耳の奥がキーンとして、何かが遠ざかっていくような感覚がした。
目の前の景色がぼやけて、うまく呼吸ができなくなって、力が抜けたように席に座り込む。
「自殺?そんなわけないだろ!?ちゃんと調べろよ!」
大人に向かって、こんな風に声を荒らげたのは初めてだった。
葬儀が終わっても、現実感なんて戻ってこなかった。
毎日が夢みたいで、でも朝になると目が覚めて、ああ、やっぱり美羽はいないんだ、って思い知らされる。
何をしていても、ふとした瞬間に空気が止まる。
食卓も、風呂場も、帰り道も。
美羽がいないということが、世界のどこかを削り取っていた。
それでも、俺は学校に行った。
「……美羽ちゃんのことで、少し話があるんだけど」
ある日の放課後、担任の先生に呼び止められて、保健室の中の席に座らされた。
そこには、美羽の担任もいて、俺は小さく頭を下げる。
校舎のざわめきが少しずつ遠ざかっていくなかで、先生は静かに口を開いた。
「……優真くん。今日は、美羽さんのことで話しておかなきゃいけないことがあるんだ」
美羽の名前が出たことで、ぼんやりとしていた頭がヒヤリとする。
その時初めて視線があった先生の目は、揺れているように見えた。
先生の手元には数枚のメモ用紙。
誰かの証言だろうか。
何度も折り目のついた紙が、先生の指先で小さく震えていた。
「……ごめん。気づいてやれなかった」
それは前置きもなく、いきなり出た言葉だった。
目を伏せる先生の表情は、いつになく苦しそうだった。
「なんのことですか?」
「最近、生徒からの聞き取りや保護者とのやり取りの中で……少しずつ見えてきたんだ。
美羽ちゃん、学校で……つらい思いをしてたみたいで」
——無視。
——上履きの紛失。
——グループLINEでの悪口。
先生の声は淡々としていたけれど、確実に震えていた。
一つひとつの言葉が、ナイフみたいに胸に突き刺さる。
「直接的な暴力はなかった。でも……いろんなことが積み重なっていたなら……きっと、それが……原因だったんじゃないかって思うんだ」
その言葉に、何かが頭の奥で弾けた。
(……原因?)
——じゃあ、美羽は、それで。
怒りが一瞬、先生に向かった。
ガタッと音を立てて立ち上がった俺に、先生は覚悟を決めたように目を瞑る。
担任だったくせに。
毎日顔を合わせていたくせに。
なんで、なんで誰も気づいてやれなかったんだ。
でも、その怒りはすぐに、自分のほうに返ってきた。
(……俺だって、そうだ)
家にいたのに。
一番近くにいたはずの、兄だったのに。
美羽は、何も言わなかった。
けれど、本当は——言えなかっただけなんじゃないか?
俺が、気づこうとしていなかっただけなんじゃないか?
——気づいていれば、変えられた未来が、あったかもしれないのに。
耳の奥がキーンとして、何かが遠ざかっていくような感覚がした。
目の前の景色がぼやけて、うまく呼吸ができなくなって、力が抜けたように席に座り込む。



