* * *

 八月の終わり。

 蝉の声が遠ざかって、風に少しだけ秋の匂いが混じり始めたころ。

 麗衣は、ふたたび学校へ戻った。

 新学期の初日、教室に入ったとき、変わらない笑顔で1番に声をかけてくれたのは、優真だった。

 「おかえり、麗衣」

 それが、嬉しくてたまらなかった。

 「おはよう」
 「今日も暑いな〜」

 変わらない優しさ。変わらない距離感にほっとする。

 「麗衣、おはよ!」
 「久しぶりに見た!元気そうでよかった〜」
 「何してたんだよ!心配したんだぞ〜!」

 気づけば麗衣は、数人のクラスメイトに囲まれていた。

 休んでいたあいだ、どんなふうに思われていたのか不安だったけれど、その空気は想像よりもずっとやわらかくて、温かかった。

 その間に、優真はそっと近くから離れていく。

 笑顔で応えながら、ふと頭の片隅で思った。

 ——蓮は、うまくやれているだろうか。

 久しぶりの登校。

 きっと不安なはずなのに、今朝はそんな顔を少しも見せず「行ってきます」と玄関を出て行った。

 その背中が少しだけ大きく見えて、心の奥でぎゅっと何かが締めつけられた。