* * *

 けれど、その日の面談で、スタッフさんがふと告げた言葉に、胸がざわついた。

 「見て、うさぎ折れた!」
 「……ほんとだ。耳がちゃんと立ってる」

 いつもより少しだけ口数が多い蓮の声に、麗衣はそっと目を細めた。

 蓮のとなりでケラケラと笑う女の子の声も、麗衣の中の張り詰めたものを少しずつほどいていく。

 そのとき、後ろから声をかけられた。

 「麗衣ちゃん、市のこども家庭支援課の方いらっしゃったよ」
 「あ、はい。今行きます」

 立ち上がりながら、蓮の様子をもう一度だけ確かめる。

 相変わらず不器用な手つきで、真剣に折り紙と向き合っている姿に、思わず頬がゆるんだ。

 大丈夫。今なら、ひとりでもきっと待っていられる。

 名前を聞き慣れてきた「こども家庭支援課」は、麗衣がこの施設で暮らすようになってから、何度か顔を合わせている市役所の部署だった。

 面談室のドアを開けると、いつも通り、明るい声が飛んできた。

 「麗衣ちゃん!こんにちは」

 職員さんのひとりが、笑顔で手を振ってくれる。

 麗衣は思わず、少しだけ笑みを返した。
 緊張する場面のはずなのに、不思議と心がやわらぐ。

 「最近はどう?生活には慣れたかな?」
 「はい。だいぶ」
 「蓮くんも、施設の方から笑顔が増えてきましたって聞いたよ〜」
 「そうなんです。前よりちょっとだけ、おしゃべりもするようになって」

 会話は、堅苦しいものではなかった。

 まるで近所のお姉さんと話しているみたいな、雑談に近い雰囲気だった。

 施設に暮らすようになってから、こうして定期的に、生活のこと、学校のこと、支援制度のこと……いろんな話をする場が設けられていた。

 制度や条件の説明だけじゃなく、「今困っていることはないか」「この先どうしたいか」も、毎回きちんと聞いてくれる。

 そしてその日は「夏休み明けからの暮らしをどうしていくか」という大事な話だった。