* * *

 「これ、おかわりしてもいい?」
 「もちろん。たくさん食べて」

 スタッフさんの明るい声に、蓮が控えめに笑ってうなずく。

 その様子を見ていた麗衣は、胸の奥がじんと温かくなるのを感じていた。

 夏休みに入って二週間が経つころには、そんな蓮の様子が普通になりつつあった。

 無理して元気にふるまっていたあの頃の笑顔とは違うけれど、本当に安心しているときだけに見せる、控えめだけど穏やかな笑顔。

 初めて見る笑顔を見せるようになった蓮が、ようやくこどもに戻れている気がして、麗衣はどこか安心していた。

 食堂のテーブルでは、同じ年ごろの男の子が蓮に声をかけていた。

 「なあ、この絵描いたの蓮?」
 「……そうだよ」
 「うわ、かっけー!俺にも教えて!」
 「……いいよ、一緒に描こ」

 ぽつぽつとしか話さないけれど、蓮の声には力があった。

 笑い声の中で、蓮が小さく目を細めているのが見える。

 まだ元気いっぱいとは言えない。

 でも、こうやって誰かと自然に会話して、少しずつ笑顔を見せるようになってきて。

 不安でいっぱいだったこの場所にも、蓮は少しずつ、馴染んできた気がしていた。