* * *
優真の目に、嘘の花びらが見えるようになったのは、美羽がいなくなった夜からだった。
あの日、夜になっても帰ってこない美羽を、家族は全員で探し回った。
警察にも捜索願を出し、一晩中、眠ることなく街を歩き続けた。
そして、夜明け前。
一度だけ家に戻った、その朝方のことだった。
電話が鳴り、受話器の向こうから告げられたのは、望んでいた「見つかった」ではなく、もう二度と聞きたくなかった知らせだった。
捜索にあたっていた人たちが、美羽の居場所を見つけたのだという。
けれどそれは、もう声をかけても返事のこない場所で——
誰の呼びかけにも応えることのない、静かな静かな場所だった。
「大丈夫よ。絶対、帰ってくるわ」
泣き腫らした目をしているくせに、母は笑ってそう言った。
震える手で優真の背中を撫でながら、信じたくないと、そんなはずないと、自分に言い聞かせるように、何度も、何度も繰り返した。
「母さん……」
母にかける言葉を探していた。
そのとき、ふわりと、母の肩のあたりから、淡い花びらがひとひら、舞い落ちた。
空中からゆっくりと落ちてきたそれは、桜の花びらによく似ていた。
けれど、季節は冬。
家の中に、花などどこにも咲いていない。
誰にも気づかれずに舞い落ちたそれを、優真だけが目で追っていた。
ひとつ、ふたつ、やがて、母の周囲に淡く散らばるように落ちていく。
手を伸ばしても、それは指をすり抜けていくばかりだった。
不思議だった。
おかしいとも思った。
けれど、そのときはまだ、頭もぼんやりとしていて。
気のせいだと思っていた。
ただ、心の奥にざらりとした違和感だけが、確かに残っていた。
優真の目に、嘘の花びらが見えるようになったのは、美羽がいなくなった夜からだった。
あの日、夜になっても帰ってこない美羽を、家族は全員で探し回った。
警察にも捜索願を出し、一晩中、眠ることなく街を歩き続けた。
そして、夜明け前。
一度だけ家に戻った、その朝方のことだった。
電話が鳴り、受話器の向こうから告げられたのは、望んでいた「見つかった」ではなく、もう二度と聞きたくなかった知らせだった。
捜索にあたっていた人たちが、美羽の居場所を見つけたのだという。
けれどそれは、もう声をかけても返事のこない場所で——
誰の呼びかけにも応えることのない、静かな静かな場所だった。
「大丈夫よ。絶対、帰ってくるわ」
泣き腫らした目をしているくせに、母は笑ってそう言った。
震える手で優真の背中を撫でながら、信じたくないと、そんなはずないと、自分に言い聞かせるように、何度も、何度も繰り返した。
「母さん……」
母にかける言葉を探していた。
そのとき、ふわりと、母の肩のあたりから、淡い花びらがひとひら、舞い落ちた。
空中からゆっくりと落ちてきたそれは、桜の花びらによく似ていた。
けれど、季節は冬。
家の中に、花などどこにも咲いていない。
誰にも気づかれずに舞い落ちたそれを、優真だけが目で追っていた。
ひとつ、ふたつ、やがて、母の周囲に淡く散らばるように落ちていく。
手を伸ばしても、それは指をすり抜けていくばかりだった。
不思議だった。
おかしいとも思った。
けれど、そのときはまだ、頭もぼんやりとしていて。
気のせいだと思っていた。
ただ、心の奥にざらりとした違和感だけが、確かに残っていた。



