* * *

 優真は自室に戻り、そっとドアを閉めた。

 静まり返った部屋に、カチリとドアノブの音だけが残る。

 机の脇、壁にもたせかけるように置かれた写真立てに、ゆっくりと視線を向けた。

 そこには、私服姿の女の子と肩を並べて笑う、少し幼い優真の姿があった。

 撮影された日差しの中で、ふたりはとても幸せそうに見えた。

 優真は、写真の中の女の子の顔をじっと見つめた。

 目の奥に、熱いものがかすかににじむ。

 「なんとか、麗衣の花びらは消せそうだよ」

 小さく、誰にも聞こえない声でつぶやく。

 「……美羽」

 優しい名前を、唇の内側でそっと呼んだ。

 夜の静けさの中で、その言葉だけが、彼の胸の奥に沈んでいった。