花びらが舞う世界で、君の涙が未来を照らす

    * * *

 優真とお風呂に入って楽しそうに出てきた蓮。

 その姿に安心して、私もお風呂を借りる。

 出てきた頃には、蓮は客間に並べられた布団ですやすやと眠ってしまっていた。

 「あの、何から何までありがとうございます」

 一度リビングに戻り、優真のご両親に改めて頭を下げる。
 テレビを見ていた二人は振り返り、なんでもないように笑ってくれた。

 「全然よ。賑やかで楽しいわ。蓮くん、とても良い子ね」
 「優真も楽しそうだったしな」

 思わず泣きそうになったのを慌ててグッと堪え、笑顔を返す。

 当たり前のようにやさしい声、普通の家の匂い。
 それだけのことが、自分には遠かった。

 「麗衣、ちょっと」

 リビングのドアががちゃりと開いて、お風呂上がりの優真が顔をのぞかせた。

 ストンと下ろされた前髪はまだ少し濡れている。

 「消毒、するから」

 促されるまま、家族に会釈をして優真の後へと続く。

 案内されたのは、優真の部屋らしく、シンプルだけど整えられた空気に、淡い柔軟剤の香りがふわりと漂っていた。

 「腕、出して」

 言われるままに袖をめくると、優真がそっと消毒液の綿を当てる。

 ひやっと冷たい感触に、思わず肩がすくんだ。

 「しみるかも。ごめん」
 「ううん、大丈夫」

 心配そうに顔を見ながら消毒してくれる指先は丁寧で、やさしい。

 でも、逆にそれが少し恥ずかしくて、どこを見ていいのかわからなかった。

 包帯を巻く手つきも慣れていて、テキパキと、でも不器用ではないやさしさを感じた。

 手当てに慣れてるし、小さい頃よく怪我してたのかな。とか、妙なことを考えて気を紛らわせる。

 「じゃあ、顔。ちょっとだけ、動かないで」

 優真が前にしゃがみこむ。

 視線の高さがぴったり合って、目が合った。
 その一瞬で、鼓動が跳ねる。

 ーー近い。

 さっきまで別になんとも思っていなかったはずなのに、お風呂上がりの優真はどこか違って見えた。

 頬に当てられた綿の感触よりも、目線の熱のほうが強く感じる。

 「……大丈夫?」
 「え?あ、うん……」

 うまく返事ができなくて、視線をそらす。

 けれど、絆創膏を貼るときにまたそっと顔が近づいて、息がふっと触れた気がして、もう何がなんだかわからなくなった。

 「……はい、おしまい」

 優真が静かに離れて、笑った。
 その笑顔を見て、ようやく自分も息を吐いた。