* * *
ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴ったあとも、教室はざわざわと落ち着く気配がなかった。
夏休み直前。
文化祭当日に向けた準備の話題で、あちこちのグループが勝手に会議を始めていた。
「じゃあさ、夏休み中にコテージ借りて準備しようよ!」
「え、泊まり!?めっちゃ楽しそうじゃん!」
「昼間は装飾つくって、夜は花火とかバーベキューとかやりたい!」
文化祭実行委員の数人が中心になって、テンション高く話を進めていく。
教室の空気は、お祭りの始まりに近かった。
麗衣は、その輪の中で、笑い声だけを聞いていた。
夏の空気に満ちたその騒がしさが、どこか遠い世界のことのように感じられていた。
「麗衣もさ、コテージ来れる?一緒に準備手伝ってくれると、めっちゃ助かるんだけど!」
前の席から振り返った実行委員の子が、うれしそうに声をかけてくる。
「え、あ……」
一瞬、返事に詰まった。
本当は、行きたかった。
みんなと泊まり込みで過ごすなんて、まるで修学旅行の前夜みたいで、考えただけで胸が高鳴る。
きっと夜まで笑い合って、準備なんだか遊びなんだかわからないまま、特別な夏の思い出になる。
でも——私はいけない。
「……ごめん。うち、そういうのちょっと難しくて」
言った瞬間、教室の空気がすこしだけ揺れた気がした。
「そっか、残念だけど……仕方ないね!」
「うん、ごめんね!普通に行ける日は参加するから!」
すぐに切り替えてくれたその子の笑顔に、救われたはずだった。
けれど、胸の奥にひっかかるものは消えなかった。
(私だって、本当は、行きたい)
たったの2日、家を空けることすら叶わない現実が、じわじわと胸を締めつける。
頭の中で、母のこと、弟のことがよぎった。
——どうして、私ばっかり。
そんなこと、思いたくなかったのに。
思った瞬間、ひどい人間になったような気がして、慌てて自分の感情を押し込めた。
足元にはいつもの如く、見えない影が落ちる。
同じ談笑の輪にいた、優真と目が合った。
事情を知る優真に、この醜い心が見透かされているようで胸がざわつく。
彼は、優しい目をしていた。
何も言わないそのまなざしが、逆に胸を締め付けて、麗衣はすぐに目を逸らした。
ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴ったあとも、教室はざわざわと落ち着く気配がなかった。
夏休み直前。
文化祭当日に向けた準備の話題で、あちこちのグループが勝手に会議を始めていた。
「じゃあさ、夏休み中にコテージ借りて準備しようよ!」
「え、泊まり!?めっちゃ楽しそうじゃん!」
「昼間は装飾つくって、夜は花火とかバーベキューとかやりたい!」
文化祭実行委員の数人が中心になって、テンション高く話を進めていく。
教室の空気は、お祭りの始まりに近かった。
麗衣は、その輪の中で、笑い声だけを聞いていた。
夏の空気に満ちたその騒がしさが、どこか遠い世界のことのように感じられていた。
「麗衣もさ、コテージ来れる?一緒に準備手伝ってくれると、めっちゃ助かるんだけど!」
前の席から振り返った実行委員の子が、うれしそうに声をかけてくる。
「え、あ……」
一瞬、返事に詰まった。
本当は、行きたかった。
みんなと泊まり込みで過ごすなんて、まるで修学旅行の前夜みたいで、考えただけで胸が高鳴る。
きっと夜まで笑い合って、準備なんだか遊びなんだかわからないまま、特別な夏の思い出になる。
でも——私はいけない。
「……ごめん。うち、そういうのちょっと難しくて」
言った瞬間、教室の空気がすこしだけ揺れた気がした。
「そっか、残念だけど……仕方ないね!」
「うん、ごめんね!普通に行ける日は参加するから!」
すぐに切り替えてくれたその子の笑顔に、救われたはずだった。
けれど、胸の奥にひっかかるものは消えなかった。
(私だって、本当は、行きたい)
たったの2日、家を空けることすら叶わない現実が、じわじわと胸を締めつける。
頭の中で、母のこと、弟のことがよぎった。
——どうして、私ばっかり。
そんなこと、思いたくなかったのに。
思った瞬間、ひどい人間になったような気がして、慌てて自分の感情を押し込めた。
足元にはいつもの如く、見えない影が落ちる。
同じ談笑の輪にいた、優真と目が合った。
事情を知る優真に、この醜い心が見透かされているようで胸がざわつく。
彼は、優しい目をしていた。
何も言わないそのまなざしが、逆に胸を締め付けて、麗衣はすぐに目を逸らした。



