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 もうずっと、長い間、泣く余裕なんてなかった。

 涙が止まり、呼吸が落ち着いてきた頃、麗衣は考えていたことをぽつりと呟く。

 「小6のとき。お母さんの症状に病名がついた日。……その日以来、泣くことってなかったかもしれない」

 優真は、繋いだままだった手をぎゅっと強く握りしめる。

 「それからずっと、ちゃんと泣けてなかったんだな」
 「そうだったのかも」

 ずっと、泣いたって仕方ないと、無意識のストッパーをかけていたのだと思う。

 だけど、どうしてか今は少し心がスッキリしていた。

 何も、状況は変わらないはずなのに。

 「ありがとう。優真。隣にいてくれて」
 「全然。俺も、安心したんだ。麗衣、自分の気持ちを隠すのが上手だから、そのうち崩れちゃうんじゃないかって心配してたから」

 優しすぎるその言葉に、麗衣は再び涙が込み上げてくるのを感じていた。

 「だから、俺の前では無理しないで。強がらなくても、平気な場所が一つくらいあっていいと思うから。自分の気持ち、ちゃんと守ってあげてほしいんだ」

 ぽろぽろと、また涙があふれた。

 「泣いていいんだよ。麗衣」
 「うん……っ、ありがとうっ……」

 それは、ずっと後回しにして、忘れかけていた自分の感情を思い出したような、そんな涙だった。

 胸の奥が、じんわり熱くて苦しくて、でも、痛いほど温かい。

 ボロボロの顔だったに違いないけれど、優真を見て笑顔を作る。

 目があった優真は眉を下げて困ったように笑っていた。

 その後一緒に食べたケーキは、ふわっと溶けるような甘さで、胸の奥まであたたかくなるような味がした。