* * *
「麗衣!」
前から声がして視線を向けると、校門に、優真が立っていた。
制服のネクタイを少しゆるめて、いつものように笑っている。
「ちょっとだけ、いい?」
隠すように後ろ手に持った紙袋が揺れる。
校門から少し歩き、あまり人通りのない公園に入ると、優真はそれを差し出した。
「はい、これ。誕生日、おめでとう」
その言葉に、一瞬、思考が止まった。
まるで、心の奥にしまっていた何かを、やさしく撫でられたようだった。
「……え、なんで……」
「昨日、学生証拾った時にちょっとね」
確かに拾ってもらったなと、思い返して納得する。
「……誰にも、祝われないと思ってた」
思わずそんな独り言をこぼしてしまう。
何も変わらない1日だった。
だけど本当は、朝起きて一番に、今日が誕生日だって気付いていた。
誰にも祝われないことは分かっているから、考えたらしんどいから、気付かないふりを決めて、変わらない1日を送っていたんだ。
「俺はお祝いするよ。だって、ちゃんと生まれてきてくれたから、今ここにいるんでしょ?それは、めでたいことだよ」
当然のようにそう言って、紙袋を受け取るように促す優真。
麗衣は、呆然としながら優真を見つめていた。
だって、そんな風に言われたことなんてなかったから、驚きの方が強かった。
「ほら!早く受け取って!開けて開けて」
言われるがままに受け取り開けてみると、箱の中には、小さなコンビニケーキが入っていた。
いちごがひとつだけ乗った、シンプルなショートケーキ。
それは今まで見たどのケーキよりも、あたたかく見えた。
そして、箱に貼ってあった、封筒の形に可愛らしく折られた折り紙を手に取る。
それを開くと、手書きのメッセージが一行で綴られていた。
「生まれてきてくれてありがとう。一年に一回くらい全力で嬉しいって思える日があってもいいと思って」
読み終えた瞬間、胸の奥が、ぎゅうっと締めつけられた。
どうしてそんな言葉を知ってるの。
どうして、そんなふうに、必要な言葉を選べるの。
堪えていたものが、すべて音を立てて崩れていく。
考える時間も、抑える時間も、全てなく、自然と目元が熱くなってーー。
涙は、思っていたよりもあっさりと、頬をつたって落ちた。
「あれ……?」
もう忘れていた涙の感覚に麗衣自身が驚いていた。
けれど、一度流れ始めた涙は、長いあいだ張りつめていた膜がふっと破れたみたいに、ぽろぽろと止めどなく溢れ、もう堪えることはできそうになかった。
「……よかった……」
麗衣の涙を見たとき、優真は、なぜかほっとしたように笑って、目元を指の背でぬぐった。
そっと、彼女の足元に視線を向ける。
——何も、落ちていない。
そのことを確認し、もう一度麗衣を見据える。
そして、ふらりと伸ばした手が、ためらいがちに麗衣の手に触れた。
優真の指が、そっと包むように重なって、そのぬくもりに、麗衣はさらに涙をこぼした。
「……やだ、もう。ごめん……」
「いいよ、泣いたって。泣けない方が心配だったんだ」
まるで、自分が救われたみたいに——彼もまた、泣きそうになっていた。
「麗衣!」
前から声がして視線を向けると、校門に、優真が立っていた。
制服のネクタイを少しゆるめて、いつものように笑っている。
「ちょっとだけ、いい?」
隠すように後ろ手に持った紙袋が揺れる。
校門から少し歩き、あまり人通りのない公園に入ると、優真はそれを差し出した。
「はい、これ。誕生日、おめでとう」
その言葉に、一瞬、思考が止まった。
まるで、心の奥にしまっていた何かを、やさしく撫でられたようだった。
「……え、なんで……」
「昨日、学生証拾った時にちょっとね」
確かに拾ってもらったなと、思い返して納得する。
「……誰にも、祝われないと思ってた」
思わずそんな独り言をこぼしてしまう。
何も変わらない1日だった。
だけど本当は、朝起きて一番に、今日が誕生日だって気付いていた。
誰にも祝われないことは分かっているから、考えたらしんどいから、気付かないふりを決めて、変わらない1日を送っていたんだ。
「俺はお祝いするよ。だって、ちゃんと生まれてきてくれたから、今ここにいるんでしょ?それは、めでたいことだよ」
当然のようにそう言って、紙袋を受け取るように促す優真。
麗衣は、呆然としながら優真を見つめていた。
だって、そんな風に言われたことなんてなかったから、驚きの方が強かった。
「ほら!早く受け取って!開けて開けて」
言われるがままに受け取り開けてみると、箱の中には、小さなコンビニケーキが入っていた。
いちごがひとつだけ乗った、シンプルなショートケーキ。
それは今まで見たどのケーキよりも、あたたかく見えた。
そして、箱に貼ってあった、封筒の形に可愛らしく折られた折り紙を手に取る。
それを開くと、手書きのメッセージが一行で綴られていた。
「生まれてきてくれてありがとう。一年に一回くらい全力で嬉しいって思える日があってもいいと思って」
読み終えた瞬間、胸の奥が、ぎゅうっと締めつけられた。
どうしてそんな言葉を知ってるの。
どうして、そんなふうに、必要な言葉を選べるの。
堪えていたものが、すべて音を立てて崩れていく。
考える時間も、抑える時間も、全てなく、自然と目元が熱くなってーー。
涙は、思っていたよりもあっさりと、頬をつたって落ちた。
「あれ……?」
もう忘れていた涙の感覚に麗衣自身が驚いていた。
けれど、一度流れ始めた涙は、長いあいだ張りつめていた膜がふっと破れたみたいに、ぽろぽろと止めどなく溢れ、もう堪えることはできそうになかった。
「……よかった……」
麗衣の涙を見たとき、優真は、なぜかほっとしたように笑って、目元を指の背でぬぐった。
そっと、彼女の足元に視線を向ける。
——何も、落ちていない。
そのことを確認し、もう一度麗衣を見据える。
そして、ふらりと伸ばした手が、ためらいがちに麗衣の手に触れた。
優真の指が、そっと包むように重なって、そのぬくもりに、麗衣はさらに涙をこぼした。
「……やだ、もう。ごめん……」
「いいよ、泣いたって。泣けない方が心配だったんだ」
まるで、自分が救われたみたいに——彼もまた、泣きそうになっていた。



