* * *

 席についたときには、すでに数学の授業は半ばに差しかかっていた。

 教師はこちらにちらりと目をやったが、何も言わず、そのまま板書を続けた。

 その無言が、かえって胸に刺さる。

 三日も休んだのに何も言わない。
 そのことが、逆に怖かった。

 チャイムが鳴り、授業が終わる。

 「ありがとうございました」の声とともに、クラスのざわめきが一斉に戻ってくる。

 生徒たちは次の授業の準備をしたり、雑談を始めたりと、慣れた動きで動き出していた。

 そのなかで、ひときわ低く通る声が響く。

 「白石。ちょっと」

 教卓の方を見ると、教師が腕を組んだまま、こちらを見ていた。

 麗衣は静かに立ち上がり、ざわつく教室の中を通り抜けて、教卓の前へと向かう。

 クラスメイトの何人かが、会話の合間にちらっと視線を向ける気配がした。

 「三日間も無断で休んでたな。何か事情があったのか?」

 その言葉には、心配というよりも、苛立ちと疑念がにじんでいた。

 詰問するような口調に、麗衣の背中がわずかに強張る。

 「……すみません」

 言い訳をすることもできず、ただそれだけを返す。

 「すみませんで済むなら、誰も苦労しない。繰り返すようなら、保護者に連絡するからな」
 「……はい」

 声を張り上げられたわけでもないのに、視線が突き刺さるように痛い。

 後ろではまだ誰かが笑っている。
 誰かがプリントをめくっている。

 その日常の音が、遠く感じた。

 麗衣は、静かに頭を下げると、自分の席へ戻った。
 ノートの表紙にそっと手を置いた指先が、かすかに揺れていた。