* * *

 そして、朝。

 蓮の顔はほんのりと赤く、体温計の数字は37.9を示していた。

 「……そっか。今日は、お休みしようね」

 いつもより柔らかい声でそう言って、麗衣は、母の寝室の扉に手をかけたが、ノブを握ったまま、そっと力を抜いた。

 ——昨夜、あれだけ荒れていたのだから、きっと今日も調子は良くない。

 無理に声をかければ、かえって逆効果かもしれない。

 そう思って、麗衣はドアを開けることなく、何も言わずにその場を離れた。

 リビングに戻ると、テーブルの上には、ほとんど手をつけられていないおかゆの器が置かれていた。

 ソファでは、蓮が毛布にくるまったまま、ぐったりと横になっている。

 「蓮、もう食べられない?」

 そう声をかけると、蓮は小さく頷いて、項垂れた。

 「しんどいね……」

 麗衣はそっと隣に座り、蓮の背中をトントンとやさしく叩きながら、顔色をもう一度だけじっと覗き込む。

 額には汗がにじみ、顔は赤く火照っているのに、体はかすかに震えていた。

 この様子では、熱はまだ下がりそうにない。
 むしろ、これからもっと上がるかもしれない。

 ——このまま置いて、学校には行けない。
 とりあえず病院に連れていかなきゃ。

 そう判断して、麗衣は用意していた制服のシャツをハンガーに掛け直し、代わりに私服のロンTとデニムを手に取った。

 すばやく着替えると、スマホを手に取り、かかりつけの小児科に電話をかけ始めた。