* * *

 その晩は、布団に入っても、なかなか眠れなかった。

 目を閉じるたびに、夕方の教室での自分の声が頭の中で繰り返される。

 《大丈夫って言ってるよね》
 《お節介、やめてよ》

 (……あんなふうに、言う必要なかったのに)

 優真を責めるほど思い詰めているつもりなんてなかった。

 ただ、自分でも気づかないうちに、心の奥に溜まっていたものが、勝手にあふれてしまっただけだった。

 でも、どんな理由があっても、あれは言い過ぎだった。
 そう思うほど、胸が重くなる。

 少しだけ息を吸ったそのとき、隣の布団が小さく揺れた。

 気づかないふりをしたまま目を閉じ続けると、蓮の小さな声が聞こえた。

 「……お姉ちゃん、泣いてるの?」

 ドキッとして、思わず呼吸が止まる。

 だけど、返事をする前に、蓮はぽそりとつぶやいた。

 「ぼくがいるからね」

 その言葉に、胸の奥をぎゅっと掴まれた気がした。

 「……何それ。変なの」

 そう返す声は、自分でも驚くほどかすれていた。

 「泣いてないし。大丈夫だよ」

 それは、何度も自分に言い聞かせてきた言葉だった。

 予想外の言葉だったからか、少しきつく返してしまった。

 蓮の布団がまた、小さく揺れる。
 トントンと優しく蓮の布団を叩くと、すぐに寝息が、すうすうとまた始まる。

 (蓮にまでこんな心配させて、私最低だ……)

 目の奥が熱くなって、枕に顔を埋めた。

 涙は出なかったけれど、胸の奥がひりひりと痛んでいた。