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 ふたりが眠ったあと、麗衣はそっとリビングの照明を落として、テーブルの端にノートと電卓を広げた。

 家の中はひっそりと静まっている。

 食費、医療費、学用品、学校集金……何度も見慣れた項目を並べながら、ノートの余白に小さく数字を書き込んでいく。
 引き算ばかりのページが、静かに埋まっていくのを見て、麗衣は自然と頭を抱えた。

 スマホを手にして、通帳アプリの取引履歴を開く。

 声にならないつぶやきと共に、記帳欄の「フジモトヨシエ」という名前を見つめる。

 そこに記される毎月の十万円は、父方の祖父母から届く仕送りだった。

 不倫の末に家を出て、それきり、一度も連絡を寄こさないままになった父親とはもう完全に縁が切れてしまった状態だった。
 唯一切れることなく、代わりに届くのが、この十万円。

 私は詳しくは知らないけれど、父がいなくなって正式に離婚が決まってから毎月欠かさず送られていることは、これまでの取引履歴から読み取れる。

 正直、貰ってしまってもいいのかと迷う時もあるのだけれど、家計の現状からしてありがたい仕送りであることは間違いなかった。

 麗衣は、喉の奥に刺さるようなやるせなさを誤魔化すように、通帳をそっと閉じた。