和虹との関係が深まるにつれ、虹音は自分のレズビアンとしてのアイデンティティをより強く意識するようになった。彼女は和虹を自分の「運命の人」だとさえ感じ始めていた。しかし、ある日、些細な違和感が虹音の心をよぎった。
和虹の仕草が、時折、不自然に男性的に見える瞬間があった。体育の授業で、彼女が素早く動く姿。図書室で本を手に取る時の力強い握り方。虹音はそれを「可愛いギャップ」と笑い飛ばそうとしたが、胸の奥に小さな棘が刺さった。
そして、運命の日は突然やってきた。文化祭の準備で遅くまで残っていた虹音と和虹。二人は誰もいない美術室で、キャンバスに絵の具を塗りながら笑い合っていた。和虹が突然、虹音の手を強く握った。

「虹音先輩、私…本当のことを話したい」
虹音は微笑んだ。
「なんだよ、改まって。言ってみな」

和虹の目が、初めて見るような冷たさで光った。
「私、和虹じゃない。俺はアウグストだ」

虹音の笑顔が凍りついた。アウグストはゆっくりとウィッグを外し、清楚な女子の仮面を剥がした。そこに現れたのは、屈強な体格の男だった。虹音の頭は混乱し、言葉を失った。
「驚いたか？ お前がレズビアンだなんて、ただの幻想だよ」アウグストの声は低く、嘲笑に満ちていた。「女を愛してるつもりで、結局俺に騙されてた。お前のアイデンティティなんて、こんなもんだろ？」

虹音は後ずさり、壁に背をつけた。
「やめろ…何だよ...これ…」
アウグストは一歩近づき、虹音の髪を強引に掴んだ。
「お前みたいな奴、矯正してやるよ」