和虹はまるで絵本から抜け出したような少女だった。長い黒髪、透き通るような白い肌、控えめな笑顔。彼女が教室に足を踏み入れた瞬間、ざわめきが止まり、皆の視線が彼女に集中した。虹音は教室の後ろの席で、興味なさげに窓の外を見ていたが、和虹が自己紹介する声に思わず耳を傾けた。
「初めまして、和虹です。よろしくお願いします」

その声は柔らかく、どこか儚げだった。虹音の心に、かすかな波紋が広がる。彼女はすぐにその感覚を振り払った。「ただの転校生だろ」と自分に言い聞かせ、教科書に目を落とした。
しかし、和虹は虹音の日常に少しずつ入り込んできた。図書室で偶然隣に座ったり、昼休みに同じ場所で弁当を広げたり。彼女の仕草はどこかぎこちなく、しかしその不器用さが虹音の心をくすぐった。和虹はいつも控えめで、虹音が話しかけると頬を染めて目を伏せる。その姿に、虹音は自分が「守ってあげたい」と思うようになっていた。
「虹音先輩って、ほんとカッコいいですよね…私、憧れちゃいます」

ある日、和虹がそう呟いた。夕暮れの教室、二人きりの空間。虹音は少し照れながらも、いつものクールな笑みを浮かべた。

「憧れ、ね。まあ、悪くないよ」

和虹は小さく笑い、虹音の手をそっと握った。その瞬間、虹音の胸は高鳴り、彼女のレズビアンとしてのアイデンティティが強く脈打った。和虹は、虹音にとって「特別」になりつつあった。