「付き合って欲しいんだけど」
「…………は?」
元季の真剣な顔に、恵留は思わず固まった。
つ、付き合うって……?え、なに……?どういう意味で言ってんの?
顔に熱は集中し、冷静になろうとすればするほど、いろんなところから汗が滲む。元季の真意が掴めず困惑していると、元季はスマホの画面を恵留の顔に近づけた。
「え、これって……」
「じゃあ、放課後よろしく」
「……決まった?」
「今考え中」
明らかに不機嫌な声で恵留は答えた。その声色に元季の眉毛がハの字に寄る。
二人は帰りのホームルームを終えると、最寄りのファミレスに寄った。元季が恵留に『付き合って欲しい』と言ったのは、このファミレスで開催しているいちごフェアのことだったのだ。広げた季節限定メニューには見事なまでにいちご一色。パフェにサンデー、クレープにパンケーキ。その全てに沢山のいちごと生クリームが乗っかっている。超が付く程甘党の元季は、一人では選びきれないそのスイーツをシェアしようと考えているのだろうが、恵留はそこまで甘い物を得意としていない。
「ドリンクバーは奢るから」
決めかねている恵留の後押しになればと、元季は口を開く。ドリンクバーという響きで、勝手に鼻でコーヒーの香りが抜けた。なるほど、コーヒーと合わせれば食べれなくはない。
「元季は何に決めたの?」
「パフェ」
元季は季節限定メニューの中で、一番大きな写真を指差した。沢山のいちごに生クリーム、いちごとチョコレートのジェラートに、いちごのプリンが層になって重なっている。しかし、その視線はチラリとその下に写った別のメニューも捉えていた。
「んじゃ、俺はこれにする」
恵留はクレープを指差した。薄い生地の上にいちごと生クリーム、さらにバニラジェラートが載った写真がキラキラと光っている。
「……メグ。自分が食べ切れるやつで良いぞ」
「これぐらい食べれますー」
「コーヒーと合わせても食べきれないだろ。しかも一番生クリーム使ってるやつだし」
苦手ならメニューまで付き合うことはないと、怪訝そうな顔で元季は言った。
「どうせ元季も何口か食べるだろ。パフェかクレープかで悩んでたみたいだし」
「……別にまたくれば」
「毎回ドリンクバー奢らせるこっちの身にもなりなさいって。いいの、俺バニラアイスは好きだもん」
恵留はそう言うと、テーブルの端に設置されたボタンを押し、店員を呼んだ。
「……あっま!」
「だから無理しなくて良いって言ったじゃん」
「でもこの生クリーム、甘さ控えめで結構食べやすいよ」
「え、そうなの」
「うん。美味しい」
「……………」
「元季?」
「……ん?」
「心配しなくてもちゃんと残しておくってば」
「……ごめん」



