環子が時折やってきては、蜥蜴へえさやりと称してスズメや蜘蛛の死骸などを投げ入れ、食べるように強要するのが十数年ほど続いた。

「蜥蜴なんだからこれくらい食べるでしょう?」
 
 黒い鱗に覆われたまま変わらない魚子とは対照的に、年を得る度に美しさが高まっていく環子。姉妹であるはずの両者は天と地以上の差が広がっていた。
 体型も残飯を1日1~2回食べられたらいい方なせいか、やせた魚子と、飢えとは無縁な健康的な肉体を持つ環子とで全く違う。

(……どうか、こんな日がずっと続くなら死なせてほしい)

 もはや数えるのにも疲れたほど死を願った。このまま人間ではなく醜い蜥蜴として一生を終えるのなら、出来るだけ早い方がいい。
 それでも魚子は地を這うように生きてきた。

 しかし環子が入内するひと月前の事、魚子の運命が動き出す。