魚子が16くらいの年になった晩夏の頃。彼女は手を伸ばしても届かない高さにある格子窓から降り落ちる新緑の葉を集めていた。外からは蝉の鳴き声がひっきりなしに聞こえてきて、脳内で和歌を詠んだりもしてみる。
(叶うなら、一度だけでいい……外へ出たい)
そこへ、朱色を基調とした袿を身にまとう環子が、中年くらいの女房と下女をそれぞれ2人程連れたってやって来る。白髪が見え隠れする下女は木桶を両手で抱え、顔は明らかにあちこちに引きつっていた。
「蜥蜴、これ、えさよ。食べなさい」
「……っ!」
下女は桶に入っていた何かを掴み、魚子へ目を合わせずに、座敷牢へと放り投げる。放り投げ出されたそれを直視した魚子は思わず情けない悲鳴を上げて距離を取った。
これまで数えきれないほど見てきているのに、この年齢になっても慣れる事はない。
「あら、蜥蜴はこおろぎ食べるって聞いたけど。違うのかしら?」
くすくすと笑う環子を、魚子はただ無言で見上げる事しかできない。彼女の足元には、力なく脚を広げたこおろぎの死骸が3つほど転がったまま。
この時期夜になると涼やかで美しい音色を奏でさせてくれる虫なのだが、もはや生気はどこにもない。
「これくらいじゃ食べてくれなさそうね。もっと……いや、桶にあるやつ全部あげて頂戴」
「は、はい、姫様」
へたり込んでいる魚子の足や顔に向けて、容赦なくこおろぎの死骸が投げつけられていく。
(叶うなら、一度だけでいい……外へ出たい)
そこへ、朱色を基調とした袿を身にまとう環子が、中年くらいの女房と下女をそれぞれ2人程連れたってやって来る。白髪が見え隠れする下女は木桶を両手で抱え、顔は明らかにあちこちに引きつっていた。
「蜥蜴、これ、えさよ。食べなさい」
「……っ!」
下女は桶に入っていた何かを掴み、魚子へ目を合わせずに、座敷牢へと放り投げる。放り投げ出されたそれを直視した魚子は思わず情けない悲鳴を上げて距離を取った。
これまで数えきれないほど見てきているのに、この年齢になっても慣れる事はない。
「あら、蜥蜴はこおろぎ食べるって聞いたけど。違うのかしら?」
くすくすと笑う環子を、魚子はただ無言で見上げる事しかできない。彼女の足元には、力なく脚を広げたこおろぎの死骸が3つほど転がったまま。
この時期夜になると涼やかで美しい音色を奏でさせてくれる虫なのだが、もはや生気はどこにもない。
「これくらいじゃ食べてくれなさそうね。もっと……いや、桶にあるやつ全部あげて頂戴」
「は、はい、姫様」
へたり込んでいる魚子の足や顔に向けて、容赦なくこおろぎの死骸が投げつけられていく。



