「だって内裏は男子禁制ではございませんしぃ。零烙殿だって、梅壺更衣様と親しい間柄だって噂ですぅ」

 するとこの機会を見計らったかのように、鯉白が早歩きで魚子の元へ訪れる。

「魚子! いるか?!」
「御上! 魚子はここに……!」
「いたか! 透子、もう話したのか?!」
「ええ、お話いたしましたぁ」

 如何にも不機嫌さを露わにしている鯉白を見た魚子は、すぐに環子の件でいらついているのだなと彼の心情を察した。

「最初に言っておくが、閨を共にしたのはそなただけだ。他の妃の元へは行ってはおらぬ!」
「御上」
「すぐには信じられないと思うが、余はそなたしか抱いておらん。どうかあやつの言葉に飲み込まれないでくれ……」

 勢いよく魚子を抱き締める鯉白の目は、縋るような雰囲気が少しだけ見て取れる。これまで真剣さを何度も出してきたのを振り返ると、ゆっくりと彼の背中に手を回した。

「あなたを信じます。御上」
「……ありがとう。そなたは本当に、愛すべき妃よ」
「私をこうしたのはあなたのおかげですから」

 鯉白のおかげで疑心暗鬼な所が消え去ってくれたと、感謝の想いを伝える。鯉白はそっと魚子に自身の唇を重ねた。