鯉白の顔はわかりやすい憤怒の表情だ。あまりの圧力に魚子が思わず目を逸らしてしまうと、彼は彼女の右肩にぽんと手を置く。

「そなたを傷つける奴は、どのような者であっても許さぬ。それが我が妃のひとりだとしてもな」
「……その口ぶり、もしかして彼の裏に誰かがいると?」
「あぁ。そなたを流産させて得をするのはあの3人とその一族しかおらぬだろう」
「さすがは御上……」

 彼の推察力に感心するとともに、環子ならやりかねないよなとある意味安心感にも似た気持ちが、魚子の脳内に到来した。

「御上。私の異能は黄龍の加護でございますか?」
「……おそらくそうだろう」

 返答を受けると、反射的にごくりと唾を飲み込んだ。

「さぁ、寝よう。そなたは無理をしてはいけないからな」

 元の通り、品のある顔つきに戻った鯉白に促され、御帳台へと戻り横になった。

「よし、せっかくだ。余が子守歌でも聞かせてやろう」
「いや、結構です」
「なぜだ? 余はこう見えて子守歌には自信があるぞ」
(どこからそんな自信湧いてくるんだろう……)

 そんな魚子だったが、彼の腕枕で眠るのは案外気持ちよかったようで、朝までぐっすり眠っていた。