「そなた……玉条零烙(れいらく)か」

 黒髪に目つきが悪い黒い瞳は、鯉白の冷たい眼差しすら射抜くように睨みつけている。
 彼は玉条一族の生き残りであり、陰陽寮に属する陰陽師。黒い衣の上からも鯉白よりも痩せっぽちな体型が分かる零烙は、ぎりりと悔しそうに歯ぎしりを浮かべていた。

「ぐ、いとも簡単に阻まれるとは……」
「なぜ余の大事な妻を襲った?」
「……御上や女御に隠し立てしても無駄か。……女御を襲い、流産するように呪いをかける為よ……」

 零烙がそう零した瞬間、彼の身体に黒い鱗状の煙が走り出す。

「ぐ、がっ……!」
「おい、何をした!」

 咄嗟に鯉白は魚子をかばった。零烙は左胸を苦しそうに抑えながら、口角を釣り上げて不気味に嗤う。

「捕らえて尋問にかけようとしても、無駄だ……俺はここで死ぬ。蜥蜴の呪いによってな……!」
「なっ……!」
(どうしたら……あ)

 気が付けば魚子の両手は、苦しむ零落の腕に触れていた。