魚子懐妊発覚から3日後の夜。つわりのせいで寝付けない魚子は御帳台の外に出る。

「ん?」

 左側から突如黒づくめの着物を着た若い男が魚子のすぐ近くに現れると、両手を広げて何やら唱え始めた。
 異能で攻撃される――瞬時に察した魚子はとっさに両手を顔の前で交差させた。

「ぐあわあああっ?!」
(わっ、盾が出てきた!)

 魚子が異能を使って召喚した黄金の盾を直に受け、若い男はそのまま倒れこむ。
 左右に転がって苦しむ様子を見せ始める中、魚子は誰か! とあらん限りの声で叫んだ。

「女御様?! ご無事ですか?!」
「女房の皆! 私は大丈夫だけど、あの人が! っ、逃げてしまうっ……!」

 若い男はのたうち回りながらも弘徽殿の外へ向かっている。ここは逃してはならないと魚子が彼へ右手を伸ばすと、黄金の鎖型をした光が放たれ、若い男の身体を縛り付けた。

「ぐぅっ! これは、黄龍の加護か……?!」
(黄龍の加護って聞こえたような)

 魚子は自分の異能に驚きながらも、捕らえた男の元に駆け寄る。そこへ騒ぎを聞きつけたのか、鯉白が護衛を引き連れて駆けつけて来る。

「不届者、何者だ?!」

 鯉白の護衛を担う武装した男達が、若い男に松明を向ける。すると彼の顔が明らかとなった。