すぐに鯉白に見つかってしまった。

「どこへ向かうのだ? もしや余でも探しておった……ようには見えんなあ」

 後ろから肩に手を添えられ、くるりと身体を回転させられるとじっと近距離で瞳を凝視される。
 嘘はつけない。そう悟った魚子は正直に胸の内を話した。

「迷惑はかけられない……か。いつ余が迷惑だと思ったのだ?」
「え」

 鯉白の妖しげな顔が視界一杯に広がると、唇がふさがれる。水底へ叩きつけられたかのような苦しさを覚え、彼の胸を押した。
 やがて唇が離れていくと、魚子は思いっきり新鮮な空気を吸い込みながら鯉白から目を逸らす。

「心配するな。余は帝なのだぞ? 必ず守り抜くに決まっている」
「っ御上……ですが、環子は……」
「御上がここまで軽んじられるとはなぁ」

 口角を釣り上げて微笑む鯉白に、慌てて魚子は軽んじたつもりはございません! と否定する。

「だが、そなたが余を愛している気持ちは伝わったぞ」
「本当ですか? ……本当です?」
「ではもう一度口づけをするか? いや、これまでの口づけよりももっと激しい方がそなたには良いか」
「なっ……!」

 くっくっく……といたずらっぽく笑う鯉白に対し、顔を赤らめるのがやっとの魚子。やがて眼を閉じ2人は愛を確かめ合うように、深い口吸いを何度も交わした。
 だが、魚子懐妊の話はすぐに内裏中へと広まる事となる。