薄暗い座敷牢での夏は湿気を度外視すれば比較的過ごしやすかった。しかし冬は寒さを纏った隙間風があちこちから入り込んで魚子の身を蝕んでいく。粗末な小袖数枚しか与えられなかった上に洗濯もされない衣服は劣化が早く、体温を温めるのには適していない。
 ひどい時には鱗中に襲い掛かる縛れるような痛みと、何とも言えないかゆみをこらえながら過ごすしかなかった。

 いつしか魚子は化け物であるとか、蜥蜴姫と呼ばれるようになる。噂も屋敷だけにはとどまらず、外でも流され人々の畏怖と嫌悪の象徴となっていった。

(……もう、誰も信じられない)

 魚子の中で、生きとし生ける者達への信用はゆっくりと失われていく。
 彼女とは対照的に環子は高い単衣や袴、おしろいなど化粧品や香を望むままに買い与えられた。更に毎日どこからか陰陽師を呼んで美しさを保つ怪しい儀式を続けた結果、ますます容姿端麗さに磨きがかかる。
 光正と北の方、その親類からは「いずれ入内し皇后となるにふさわしい子」「妖華国一の美女」とちやほやされる環境下で育った環子。何も疑う事無く真に受けた結果、己の美貌に絶対的な自信を持つ傍若無人で冷淡な姫君に成長した。
 
 そんな環子の楽しみが、「蜥蜴と遊ぶ」……すなわち実姉である魚子を座敷牢の外から虐げる事だった。