医者が退出した後、辺りには魚子と鯉白だけが残されている。おそらく透子などは近くで待機しているのだろうと魚子は感じていた。

(なんだかこれまで気が付かなかった何かに気づけるようになっている。例えば……気配とか)

 鯉白はひとしきり魚子に感謝を伝えると、じっと顔を眺めていた。その瞳は慈愛に満ち溢れている。
 優しい視線を浴びているのは心地よい反面、何とも言えないむずがゆさもあった。

「御上、その……ずっと見つめられていると、なんだか恥ずかしいです……」
「あ、ああ、すまないな……ふむ、これこそが黄龍の加護、もとい異能か……?」

 鯉白が呟いた言葉が聞き取れず、何か仰いましたか? と尋ねる。
 鯉白はいや、何も。と答えるだけだった。その後何かがあったのか黒い直衣姿の者に呼ばれ、退出する。
 ひとり御帳台の中に残された魚子は、ふう。と息を吐いた。

(子を身ごもったとなれば、環子達から狙われるに違いない。けど御上に迷惑はかけられない……)

 すっと起き上がって、御帳台の外に出る。周囲は松明などの光が煌々と輝いているが、暗闇が支配しているのに変わりはない。

「内裏から、出た方がいいよね……」
「何をしている?!」