「魚子……ありがとう、本当にありがとう……」

 両手を握りしめた鯉白は身をかがめ、何度もありがとう。と繰り返し続けた。いつの間にか手は濡れていき、熱さも纏う。

「お、御上……?」

 濡れた手に視線を移すと、鯉白は背中を大きく震わせていた。彼の目からは涙が幾重にも零れ落ちて、ほぼすべてが魚子のきめ細やかな美しい肌を濡らしている。
 そんな、大げさな……と魚子は言おうとしたが、彼の嗚咽を耳にすると、言葉は喉の奥に引っ込んでいった。
 
「その、御上……」
「本当にありがとう、魚子……皇龍一族を救ってくれて、ありがとう……!」
「女御様。すでに御上の異能からは龍滅の呪いが消失した模様でございます」
「え、お医者様、そ、そうなのですか?! じゃあ、先ほど御上の身体が光っていたのは、そのおかげだったと……」

 ――そしてその鱗を持つ者と結ばれれば……我々皇龍一族にかけられた短命の呪いも消え去る。
 
 初めて出会った時にかけられた言葉が脳内によぎる。ああ、そんな意味だったのか。という納得さと、こんなにあっさりと呪いが溶ける予想外な展開に、魚子は何も言葉が出ない。

(御上は嬉しそうにしているけど……これからどうなるのだろう)

 自分が子を孕んだ事で異能に目覚め、鯉白の身体から呪いが消え去ったのは確かだと理解していた。