「おめでとうございます。ご懐妊でございます」

 意識を手放してから半刻が経過し、目覚めた魚子へ老いた男性の医者がかけた言葉は、衝撃的なものだった。

「え、私が……御上との子を?」
「女御様、最後に月のものが来たのはいつでございますか?」

 御帳台の中であおむけになっている魚子は、う~ん……と唸るような声を出す。言われてみれば、入内後月のものは来ていただろうか? はっきりと覚えていない。
 そもそも魚子にとって月のものは定期的に訪れていはいない。回答に迷っていると、医者は難しい質問を失礼いたしました。と頭を下げた。

「いえ、お気になさらず」
「それでは御上にも伝えてまいりますゆえ」

 ずきんとなぜだか胸が痛んだ。
 まだ子が出来た事自体が飲み込めていないのに、これからどうなるんだろう? と巨大な不安が襲いかかる。
 
(もし環子や女御達にも知れ渡ったら……私は)

 不安定な所に立っている訳でもないのに足首から下がすくむ。

「魚子!」

 医者に呼ばれた鯉白が、大急ぎでで御帳台のそばまで駆けつけてきた。彼らしくない顔つきのまま、魚子の左手を優しく両手で握りしめられる。