魚子が入内してから数カ月が過ぎた。時が経つのは早いもので、魚子は弘徽殿で充実した毎日を送っている。最初、鯉白が手配させた宮中女房達を信用できず警戒心を抱いていたが、皆穏やかに優しく接してくれるおかげで信頼度も上昇中だ。
鯉白が幾度となく尋ねて来る事と護衛の協力もあって、現状環子や女御達からの妨害は受けていない。彼女付きの女房がしきりに弘徽殿へ姿を見せているそうだが、もれなく全員追い返されている。
今は午前。魚子は弘徽殿内でかな文字を書くのを習っている最中だ。
教師役は鯉白が手配させた女房衆を率いる存在である両角透子。黒々とした髪はまっすぐで癖がなく、たれ目は赤く燦燦と光を灯している。彼女の曽祖父は帝で、すなわち皇龍一族の血を引く高貴な人物だ。透子自身も鬼火と呼ばれる炎を操る異能を持ち、赤い瞳もそれが由来である。
ちなみに本来、彼女には「大納言の君」と父親の官職を由来とした女房名がある。透子本人としては本名で呼ばれたいらしく、魚子にも初対面時にはそう頼んできた。理由としては本名が気に入っているから、らしい。
彼女の赤々とした瞳に視線が奪われそうになるが、用意された高級紙に手本を見つつ、ひとつずつ筆を走らせていった。
半分くらい書き終えた所で、透子が胸の前で小さく両手を合わせて、笑顔を綻ばせる。
「お上手ですぅ、女御様ぁ」
おっとりとした高い声で魚子を褒めたたえると、彼女の側や少し離れた個所で座って待機していた女房達も、わっと声があがる。
「あ、ありがとうございます……」
鯉白が幾度となく尋ねて来る事と護衛の協力もあって、現状環子や女御達からの妨害は受けていない。彼女付きの女房がしきりに弘徽殿へ姿を見せているそうだが、もれなく全員追い返されている。
今は午前。魚子は弘徽殿内でかな文字を書くのを習っている最中だ。
教師役は鯉白が手配させた女房衆を率いる存在である両角透子。黒々とした髪はまっすぐで癖がなく、たれ目は赤く燦燦と光を灯している。彼女の曽祖父は帝で、すなわち皇龍一族の血を引く高貴な人物だ。透子自身も鬼火と呼ばれる炎を操る異能を持ち、赤い瞳もそれが由来である。
ちなみに本来、彼女には「大納言の君」と父親の官職を由来とした女房名がある。透子本人としては本名で呼ばれたいらしく、魚子にも初対面時にはそう頼んできた。理由としては本名が気に入っているから、らしい。
彼女の赤々とした瞳に視線が奪われそうになるが、用意された高級紙に手本を見つつ、ひとつずつ筆を走らせていった。
半分くらい書き終えた所で、透子が胸の前で小さく両手を合わせて、笑顔を綻ばせる。
「お上手ですぅ、女御様ぁ」
おっとりとした高い声で魚子を褒めたたえると、彼女の側や少し離れた個所で座って待機していた女房達も、わっと声があがる。
「あ、ありがとうございます……」



