「父上! 母上! ここから出してください!」

 日光が当たらない狭い座敷牢に閉じ込められた魚子は、必死に木製の檻にしがみつき、光正と北の方に助けを乞うた。

「お前は一族の恥じゃ! ここから出す事は無いと知れ!」
「お前など産むんじゃなかった……!」

 いつも厳しい言葉を投げかけて来る北の方と、滅多に顔を会わせない光正から揃って拒絶された。当時の魚子はぼろぼろと涙をこぼしては、襲い掛かる胸の痛みに必死に耐えるしかできない。
 そんな彼女に追い打ちをかけるように、北の方は側にいた当時5つの環子の肩を、眼前で抱き寄せる。

「もう私の事は忘れておくれ、私が産んだのはこの美しい環子だけじゃ」
「は、母上……! いや! 母上!」
「母上と呼ぶでない! 穢らわしいっ!」

 北の方が異能放った氷の波が檻を掴んでいた腕に触れ、弾き飛ばす。冷たさを通り越した痛みに思わず身もだえする魚子を、環子は目を大きく見開いて瞳に焼き付けていた。

「よかったぁ……よかったぁ」
 
 環子は年には似合わぬ悪辣さと安堵さが混じった笑みを浮かべた。