掴みどころのない彼ではあるが、自分に見せた愛情は確かなもので、用意周到さや緻密さなども見せる辺り帝としての資質はある。と魚子は認識していた。
 ひょっとしたら、己を探し出すのにも、かなり時間を要したのかもしれない。
 入内の儀式が全て終わると、行きつく暇もなく白い寝間着に着替え髪を整えられる。と同時に後ろでは妃の寝床となる御帳台が設置された。

「御上がそろそろお渡りになるわよ! 急いで!」

 女房達の慌てふためく声を聴きながら、準備を済ませると鯉白と再会し、早速御帳台の中へと入った。

「今日からそなたは我が妻だ。よろしく頼むぞ」

 そっと抱きしめられると彼のぬくもりが全身を包む。魚子の掌は、衣からは感じさせない分厚さな背中の筋肉を敏感に感じ取っていた。

「本当は今すぐに続きを交わしたいのだが、そなたにもう一度これを見せよう」

 鯉白の腕がゆっくりと離れていく。右側には古文書と巻物が収められた黒い漆塗りの箱があった。

「……これは、古文書ですよね。先ほど大臣殿達にお見せしていた」
「そうだ。もっと言えば皇龍一族に代々伝わるものだ」

 鯉白の華奢な指によって紙の巻物が広げられた。巻物の端々は所々黄ばんでおり、かなりの年月が経過している事がよくわかる。

「ここだ」

 魚子から見て巻物の左中央が示されるが、彼女は文字の読み書きは自信が無い。

「玉条一族が、我らへかけるべき呪いを生み出す際に、黒い蜥蜴の鱗を持つ女ひとりを丸々使用した――とな」