「っおかみっ……おかみぃ……!」

 あふれ出る涙が顔を伝っては濡らしていき、身体の温度をどんどんと上昇させていく。

「大丈夫、余が側にいる。涙が枯れはてるまで泣けば良い」

 そう語る鯉白の表情は慈しみであふれていた。こんな表情を向けられるのも初めての事だが、今はすんなりと受け入れられている。
 もう、魚子の身体と心にはどこにも、鯉白への疑心はない。だが、自分を助けてくれた彼の本気に打たれた事によって発生した強い慕情が大きな塊となって膨れ上がっていく。

「しまった、ここだと騒ぎになるな。静かな場所へ参ろうか」
「っはい……」

 と言われて軽々と抱っこされる魚子は、まだ子供のように泣きじゃくっている状態だ。
 彼女が感情を爆発させたのを見てようやく安堵したのか、鯉白は慈愛の微笑みを見せる。彼の案内によって帝の居住区である清涼殿(せいりょうでん)に設けられた一間に連れていかれた魚子は、今度は激しい口吸いを受けた。

(熱い、醜い私に、ここまで――!)

 口内で舌を絡ませる姿は、まるで愛を分かち合っているかのよう。

「魚子……」
「御上……お慕いして、おります……」
「余もだ」

 彼の熱い吐息が身体全身に浴びせられ、どこまでも潤んだ青い瞳が魚子の姿をくっきりと捉える。
 そして魚子は御上からの極上の愛を全身に余す事無く受け止め、求婚を受諾した。