「っ……だったら、こういう時に、助けに来たらいいのに……! あんな人、信じるのは無理……!」

 これまでの年月によって培われてきた猜疑心が、爆発する。それと同時に彼から必要とされる言葉を投げかけられた時に感じた、胸の奥の嬉しさが大きな泥塊になってあふれ出てきた。

「うぅうっ……うぅうぁっ……」

 霰のような大きさの涙が止まらない。こんなに嗚咽をあげて泣いたのはいつぶりだろうか。
 黒い鱗で覆われた手の甲で目元をぬぐっても、濡れるばかりで全然止まってくれないのが、腹立たしささえ感じさせてしまう。

「お、かみっ……たすけて……」

 か細い虫の息のような声が、物置小屋にこだまする。
 その時、誰かが近づく足音が響いてきた。

「っ!」

 背中の産毛が逆立つと、涙がぴたりと止まる。
 ひょっとしたら、あんまりにも嗚咽をあげて泣いていたので、女房か誰かからうるさいと苦情が出たのかもしれない。それか環子が最悪の事態を選んだか――。
 自分はここで死ぬかもしれない。死んだら、もう蜥蜴でいる必要はない……早く楽にするならして。と彼女が願った時、物置小屋の扉が荒々しく開かれた。

「魚子!」

 扉が開かれた先にいたのは、昨日と同じく白い御提直衣を纏う鯉白だった。